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どきどきの「どきん」2022年版

 

 

 

今年も小3の、どきん発表会の時期がやってきました。

 

谷川俊太郎さんの詩「どきん」を暗記して、

みんなの前でホワイトボードに書いて発表します。

ルールはこれまでと同じ、「後ろを振り向いたら終わり」です。

 

手話が第一言語のろう児にとって、学習中の日本語で書かれた文章は、

分厚い手袋越しに物を触るような、捉えきれないもどかしさがあります。

抽象度の高い詩ならなおさらです。

 

そんな時、やはり助けとなってくれるのは手話です。

詩の理解を深めるため、まずは元の詩のリズムやオノマトペ、

最後の一文に向かって加速する高揚感を、

教員が見事に手話に翻訳した、手話ポエム動画を視聴します。

 

子どもたちは一緒に手話ポエムを表出し、詩を楽しみます。

それから徐々に、手話版「どきん」を手立てにして、

日本語で書かれた元の詩と仲良くなっていきます。

 

今日は一行、明日は二行と、少しずつ書いて覚えてを続けて、

発表会の前日に、ようやく全員が十行覚えて書けるようになりました。

 

発表会当日、ギャラリーはこれまでで最も多い小学部全員!

小1・2の子どもたちは「これを全部覚えたんだ!」と羨望の眼差しで小3の背中を見つめ、

小4〜6の子どもたちは「懐かしいね」「わたし、間違って泣いちゃったんだよね」

なんて思い出話をしながら応援します。

 

「そこ、違う!」

「〇〇、がんばれ!」

「できてるから大丈夫、振り向いていいよ!」

 

背中を向けている小3にはわからないと知ってはいても、

それぞれが一生懸命、手話で話しかけます。

 

小3全員がようやく振り向き、小4が教科書片手にチェックします。

小4が首を傾げたり、書かれた詩を指で辿る姿を、みんなで固唾を飲んで見守ります。

両手をギュッと握りしめ、思わず祈るような姿の子もいます。

果たして結果は?

毎月5のつく日は〇〇デー

 

 

朝、先生から事務室に声がかかりました。

「子どもたちが備品をとりに来るので、筆談の対応お願いします!」

 

明晴学園では、「しかあり」という、以下の4つの力を

伸ばすことを重点に、教育活動を展開します。

 

「し」る(知る)

「か」んがえる(考える)

「あ」らわす(表す)

「り」ようする(利用する)

 

小学部は、このうち最後の「り」に力点をおくことを、今年度の学部目標にしています。

何かできないかと思案していた先生が、スーパーのお客様感謝デーにヒントを得て、

毎月「5」のつく日を、楽しく日本語を使う「にほんごデー」にしようと、思いついたのです。

 

朝の会で、先生が「おはようございます」と板書しました。

子どもたちは、手話であいさつしない先生に、一体なにが起こるんだ?とザワザワ。

その場で、にほんごデーのことを聞かされた子どもたちは、

「えーーー!」と、さらにザワザワザワ。

 

ろう児にとって日本語は、母語の手話ほど自由に使えない第二言語です。

明晴には日本語という授業があり、国語の教科書や副教材を使って、

日本語の読み書きなどを、手話を通して学んでいきますが、

低学年の子どもたちにとっては、習い始めの外国語と同じ、

ザワザワするのも当然です。

 

 そこに、さらに先生の容赦ない指示が飛びます。

「事務室でホワイトボードをもらってきてください。筆談でね。」

「えええー!」「えーー!」

 指名された2人は突然のことに大慌て。

文章は先生から提示されるものの、2階の事務室に行って書きはじめるので、

廊下を歩いているときも、階段を上がっているときも、

一生懸命、2人で指文字を出し合っていました。

 

動画はそこから後の話。果たして筆談は成功するのか?

自分の書く番が終わっても、もうひとりの子が書く文章を、

一文字ずつ頷きながら応援したり、

「「た」じゃなくて「だ」じゃない?」

と言われて、濁点の位置に自信がなくなったり…。

 

自分たちが書いた文章を事務員さんが読んで、

ホワイトボード消しをもらえるまでの、緊張感みなぎる2人の様子と、

全てが終わったあとの、解放感に包まれた2人の表情にも注目してみてください。

(それくらい、第二言語でのやりとりは緊張するということですね)

屋上をキャンバスに その2

 

なかなか立ち入ることができない屋上ですが、

先生の粋な計らいで、年に1回だけ、屋上で図工の授業を行います。

 

足下全部が緑のキャンバスです。

色とりどりのチョークを使って、思い思いに好きなものを描きます。

ケンケンパは、毎年誰かしらが描くモチーフですが、

今年は以前は見られなかった「マインクラフト」のキャラクターが現れました。

「口の形はどうしようか?」と女の子が相談し、

「うーん、ちょっと待って」と考えた男の子が、

白いチョークで真一文字の口を描きました。

四角で構成されるキャラクターにぴったりだと思ったのか、

女の子も「なるほどー!」と納得です。

 

せっかくの屋上でしたが、空を見上げることはそこそこに、

地面にしゃがんで一心不乱に創作活動に励んでいました。

どきどきの「どきん」2021年版

 

毎年恒例、小3詩の暗記発表会です。

題材は今年も谷川俊太郎さんの「どきん」。

まずは「どきん」手話翻訳版の、暗唱の発表です。

 

手話が母語である子どもたちが詩を楽しむためには、

まずは自分たちが理解できる手話で、詩が語られていることが大切です。

詩が持つ自由さと心地よさを狭めることなく、

別の言語に翻訳することはとても難しいことですが、

そこは手話ネイティブの先生の出番です。

詩のなかで多用されているオノマトペも、手話のCLやRSを使って、

日本語の詩と同様にバリエーション豊かに表現された、

すばらしい手話動画教材を活用します。

 

次は「ど」「き」「ん」のくじを引いて順番を決めて、

覚えた詩をホワイトボードに書きつけます。

書きつけた詩を最初から最後まで自分で確かめて、

納得したらみんなの方を振り返って終了です。

 

隣の教室から、1・2年生がぞろぞろと見学にやってきます。

「まず、手話に翻訳された詩を見て、理解を深めるんだよ」

「詩の暗記は1行ずつ増やして、少しずつ書いて覚えて、練習とたしかめを繰り返していくんだよ」

と、掲示している「どきん」の書き取りを、先生がペラペラめくりながら説明します。

「いーっぱい練習してるね!」と驚く1・2年生。

1年後と2年後には、自分の番が回ってくるんだよ。

 

今年は、司会進行からホワイトボード消し、

書かれた詩の添削からすべて、子どもたちが行いました。

結果は…全員ひとつも間違えずパーフェクト!

 

全員暗記できていたことも素晴らしいのだけれど、

授業時間内にみんなの発表を終わらせられたのは、

小4の先輩たちの段取りがよかったからだよと先生が言うと、

小3がすかさず後ろを向き、小4に「ありがとう!」

と、盛大な拍手を送っていました。

転ばぬ先の手話

 

靴の左右を逆に履いてしまう、小さい人のよくあるうっかり。

「靴が反対だよ」と伝えても、キョトンとするばかりでなかなか伝わらない。

そのような経験、誰しもあるのではないでしょうか。

 

そんな時、こんな手話表現で注意を促します。

視覚的な言語である手話にとって、難しい単語を使わずに

「形状」や「状態」などを表すのはお手のものです。

この手話表現、聞こえる小さい人にもわかりやすいと思いますよ。

 

しかし、動画の中のろうの先生、手話で話しながら

相手の足元までしっかりチェックできていて、さすが「目の人」です。