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タイトル 手話の理解も左脳優位 ~脳での文章理解は手話と音声で完全に同じ~
書籍・出典 "Sign and speech: Amodal commonality in left hemisphere dominance for comprehension of sentences" 「手話と音声:文章理解の左脳優位性における言語様式によらない共通性」酒井 邦嘉・辰野 嘉則・鈴木 慶・木村 晴美・市田 泰弘
解説

JST(理事長:沖村憲樹)の研究チームは、機能的磁気共鳴映像法(fMRI)の実験から、日本手話(*1)による文章理解が音声と同じ左脳優位であることを初めて直接的に証明した。

本成果は、戦略的創造研究推進事業(チーム型)の研究領域「脳の機能発達と学習メカニズムの解明」の研究代表者の東京大学大学院総合文化研究科 助教授 酒井 邦嘉と、同研究科大学院生 辰野 嘉則および鈴木 慶、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院 教官 木村 晴美および市田 泰弘によるもの。

アメリカ手話の研究では、左脳の損傷で音声言語と同様に手話失語が起こることが明らかとなっている。一方、最近のfMRIによる研究では、手話を見るときに右脳の活性化が特に高まることが報告されており、手話失語の知見と矛盾するため、激しい論争が行われてきた。

今回、ろう者・コーダ(日本手話と日本語のバイリンガル)・聴者の3グループを対象として、文章理解における脳活動をfMRIにより測定し比較することによって、日本手話の場合も日本語と同様に左脳の言語野が活性化することが明らかになった。

この結果により、手話と音声言語の左脳優位性に関する論争に最終的な決着をつけることができ、脳における言語処理の普遍性が示唆された。ろう者が手話を母語として獲得することの必要性を科学的に裏付けた本研究成果は、ろう教育や医療現場の改善へとつながることが期待される。なお、本研究成果は、平成17年2月23日発行のイギリスのブレイン誌(Brain)オンライン版に発表された。

(*1) 日本手話とは、日本のろう者が母語として獲得している言語であり、日本語の語順に従って手話単語を並べた「日本語対応手話(シムコム)」とは全く異なる言葉である。

 

関連URL http://mind.c.u-tokyo.ac.jp/Sakai_Lab_files/NewsJ/JST_Report_2005.htm
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