Meisei Gakuen School for the Deaf

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手話の教育

聞こえない子に対して、従来のろう学校は「努力して、聞こえる人に近づこう」という教育を行ってきました。その柱となったのが「口話法」です。相手の口の動きなどを見てことばを読み取り、自分では聞けない声を出してしゃべる訓練をする方法です。近年、補聴器や人工内耳の進歩で、難聴児はずいぶん「聞こえる人に近づく」ことができるようになりました。しかしどんなにハードウェアが進歩しても、またどれほど厳しい訓練を重ねても、十分に聞き、しゃべれるようになる子は一部です。すべてのハードウェアは、手話という“完璧なソフトウェア”にくらべれば限界があります。

私たちは、聞こえない子には聞こえない子の生き方があると考えています。

多くの聞こえない子は、はじめから手話で育てれば、ほとんど苦労せず自然に言語を獲得し、ことばを持つ人間の世界に入ることができます。手話の環境があれば、乳幼児期から困難な音声言語の習得訓練に明け暮れるのではなく、自然に、楽しく、子どもらしい子どもを育てることが可能です。明晴学園はそのような子どもたちのために開かれた教育機関なのです。

明晴学園は、前身のフリースクール「龍の子学園」の時代から10年以上、手話をもとにしたバイリンガル教育を実践し、この教育によってろう児はのびのびと思考力、認知力、言語力を伸ばしていくことをくり返し確認してきました。

日本手話

明晴学園で使われている手話は、「日本手話」です。日本手話は、日本語を手の形に直したものではなく、日本のろう者がむかしから使ってきた自然言語です。自然言語であるために、そのなかにいれば子どもは自然に日本手話を身につけることができます。日本語の影響を強く受けているため、一見すると日本語とまちがいやすいところがありますが、日本語とは単語も文法も異なる別の言語です。

*明晴学園のホームページではとくに断りのないかぎり手話とは日本手話のことです

ろう児

耳が聞こえず、手話を使う人のことを「ろう者」といいます。子どもの場合は「ろう児」です。明晴学園では子どもたちをろう児と呼び、聴覚障害児とは呼びません。ろう者やろう児は「耳が聞こえない」者というより、「手話を使う」者を意味しているからです。ろう者やろう児という言い方はけっして差別的なものではなく、本人たちはむしろそうした呼称に文化的、言語的マイノリティとしての誇りをもっています。

*ろう者に対し、耳が聞こえる人のことは「聴者」と呼んでいます

第一言語としての手話

子どもが最初に身につけることばを第一言語(母語)といいます。聞こえない子の第一言語は手話です。どのような言語であろうと、第一言語をしっかり身につけていなければ第二言語に進むことはできず、健全な人格の形成すら阻害されます。ろう児が、自分では理解できない音声言語やノンネイティブの手話にさらされつづけることは、第一言語の習得に大きな障害となる可能性があります。明晴学園では、ろう児がまずしっかりと第一言語としての手話を身につけるよう、乳幼児からの相談を重視し、正式な教科としての手話の学習を進め、十分な数のネイティブのろう者教員や相談員を配置しています。

手話の環境

明晴学園では、すべての学習は手話で行われます。ろう児は教室で先生が何をいっているかをまちがいなく理解し、自分のいうことをきちんとわかってもらえるという揺るぎない安心感をもっています。また授業だけでなく、休み時間や各種の学校行事、職員会議や保護者との相談もすべて手話で行っています。明晴学園は、一歩校内に入れば学校全体が手話の世界なのです。ただし手話ができない来校者や、手話のレベルがまだ十分でない保護者などに対しては、必要に応じて聴者の教職員が対応し、手話通訳を手配することもあります。

バイリンガル教育

明晴学園で行っているバイリンガル教育は、手話と日本語という二つの言語の習得を目指します。ただし日本語は読み書きだけで、発声や聞きとりは行いません。ろう児は第一言語の手話が優位であるため、当初は日本語の力が遅れがちです。しかし心配はいりません。手話をもとに、子どもたちはやがて確実に日本語の力を身につけてゆきます(逆に、手話の力が十分でないと、日本語の学習にも問題が生じます)。いたずらに日本語の学習を急ぐより、手話という100%わかることばによって伸び伸びと学び育つことが、人間としての基本的な力をはぐくみ、その後の日本語修得を有利にします。明晴学園のバイリンガル教育は、このような認識のもとに具体的なカリキュラムを組んでいます。

生活言語と学習言語

手話は自然言語であり、その環境のなかにいればろう児は自然に獲得することができます。しかしそうして獲得した手話は生活言語といわれ、日常生活での使用にとどまります。「いま」と「ここ」、「身の回り」にとどまる言語といえばいいでしょうか。しかし論理的な思考や推論を重ね、高度な学習や思索を進めるためには、生活言語だけで十分とはいえません。高度な思考を行うためのには学習言語を身につけなければなりません。ろう児の生活言語を学習言語に高めるために、明晴学園では正式な教科としての「手話」の時間を設け、小学部、ことに高学年以上で高度な手話の習得を進めています。それはまた、学習言語としての日本語を習得する準備ともなっています。

ろう文化

ひとつの言語がひとつの共同体をつくり、共同体に固有の文化を生みだすように、手話という言語もまたろう者固有の文化、ろう文化を生みだします。ろう文化は視覚を基本とするため、明晴学園はたとえば授業のはじめや終わりを告げるチャイムの代わりに、フラッシュ・ライトを採用しています。教室は壁を取り払い、開放的な作りにしました。そうした物理的な面だけでなく、さまざまな教科の学習に際してろう児が持つ独自の認知方法に十分配慮しています。明晴学園のろう児は、手話という言語が生みだす表現、伝承、世界観をネイティブのろう者教員やゲストと共有しながら、ゆたかな人間的感性と表現力を磨き、聴者とは異なるろう者固有の文化の体系を体得してゆきます。

バイカルチュラル教育

明晴学園は、バイリンガルに加え、バイカルチュラル教育を行っています。手話と日本語(日本語の読み書き)、それにろう文化と聴文化(聴者の文化)の4つの分野を重点とするということです。バイリンガルに加えてバイカルチュラルを柱としているのは、手話も日本語も、言語の土壌となる文化を理解せずには習得できないからです。また聴文化の理解は、日本語獲得の背景として必要なだけでなく、聴者が圧倒的多数の社会で生きていくために必要な生活技術の習得も意味します。一方ろう文化の習得は、子どもたちがろうであることに自信をもつ源泉となり、ろう児の人間形成に欠かすことができません。

「日本語対応手話」について

日本語対応手話とは、日本語を手の動きに直した手話で、本質的に中身は日本語です。ふつう日本の社会で目にすることが多いのは、この日本語対応手話の方でしょう。日本語がわかっている人にはよく通じますが、生まれたときから手話で育ち、日本語の習得ができていない子どもには日本語対応手話は通じません。通じないだけではなく、子どもたちにとってはあいまいで誤解を生みやすいコミュニケーション手段となり、言語発達や授業の妨げにもなります。

ろう者の団体のなかには日本手話と日本語対応手話を区別することへの異論もありますが、バイリンガル教育を進める上では、この二つの言語をはっきり区別する必要があります。明晴学園の授業では、日本語対応手話は使いません。

高校について

明晴学園には2010年4月に中学部が開設され、幼・小・中の12年間一貫したバイリンガル・バイカルチュラル教育を受けられるようになりました。しかし明晴学園には自力で高校を設置する力はなく、中学部を卒業した子どもたちはいずれ他の高校に進学するなど、バイリンガルから離れた道筋を歩まなければなりません。高校や大学に対しては必要に応じて手話通訳やノートテイカーを受け入れ、あるいはそのための社会資源を活用するなどの措置を通して、ろう児の高等教育への理解を深め、ご協力いただきたいと願っています。

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