日本手話
明晴学園で使われている手話は、「日本手話」です。日本手話は、日本語を手の形に直したものではなく、日本のろう者がむかしから使ってきた自然言語です。自然言語であるために、そのなかにいれば子どもは自然に日本手話を身につけることができます。日本語の影響を強く受けているため、一見すると日本語とまちがいやすいところがありますが、日本手話は日本語とは別の言語であり、単語も文法も異なる独自の体系からなっています。
*明晴学園のホームページではとくに断りのないかぎり手話とは日本手話のことです
ろう児
耳が聞こえず、手話を使う人のことを「ろう者」といいます。子どもの場合は「ろう児」です。明晴学園に通う子どもたちは全員ろう児です。ここでぜひご理解いただきたいことは、ろう者やろう児は「耳が聞こえない」者というより、「手話を使う」者を意味しているということです。このため明晴学園では、ろう児を聴覚障害児とは呼びません。ろう者やろう児という言い方はけっして差別的なものではなく、本人たちはむしろそうした呼称に文化的、言語的マイノリティとしての誇りをもっています。
*ろう者に対し、耳が聞こえる人のことは「聴者」と呼んでいます
第一言語としての手話
子どもが最初に身につけることばを母語、あるいは第一言語といいます。聞こえない子の第一言語は手話です。どのような言語であろうと、第一言語をしっかり身につけていなければ第二言語に進むことはできず、また人格の形成すらおぼつかないということになりかねません。ろう児の場合、当人に理解できない音声言語やノンネイティブの手話にさらされつづけることは、第一言語の習得に大きな障害となる可能性があります。明晴学園では、ろう児がまずしっかりと第一言語としての手話を身につけるよう、乳幼児への相談や正式な教科としての手話の学習、十分な数のネイティブのろう者教員や相談員の配置を実現しています。
手話の環境
明晴学園では、すべての学習は手話で行われます。ろう児は教室で先生が何をいっているかをまちがいなく理解し、自分のいうことをきちんとわかってもらえるという絶対の安心感をもちます。また授業だけでなく、休み時間や各種の学校行事、職員会議や保護者との相談もすべて手話で行っています。明晴学園は、一歩校内に入れば学校全体が手話の世界なのです。ただし手話ができない来校者などに対しては聴者の教職員が対応し、また必要に応じて手話通訳を手配しています。
バイリンガル教育
明晴学園で行っているバイリンガル教育は、手話と日本語という二つの言語の習得を目指します。ただし日本語は読み書きだけで、発声や聞きとりは行いません。ろう児は第一言語の手話が優位であるため、当初は日本語の力が遅れがちですが、少しも心配することはありません。手話をもとに、子どもたちはやがて確実に日本語の力を伸ばします。このことは明晴学園の前身であるフリースクールの実践でもくり返し確認されてきました。いたずらに日本語の学習を急ぐより、手話という100%わかることばによって伸び伸びと学び育つことが人間としての基本的な力をはぐくみ、その後の日本語修得を有利にするとバイリンガルの専門家は等しく認めています。明晴学園のバイリンガル教育もまた、そのような概念のなかで具体的なカリキュラムが組まれています。
生活言語と学習言語
手話は自然言語であり、その環境のなかにいればろう児は自然に獲得することができます。しかしそうして獲得した手話は、日常生活で活用されるにとどまります。つまり、「いま」と「ここ」、「身の回り」にとどまる言語といえばいいでしょうか。しかし論理的な思考や推論を重ね、高度な学習や思索を進めるためには、生活言語だけで十分とはいえません。そうした高度な思考を行うための言語が学習言語です。ろう児の生活言語としての手話をいかにして学習言語にまで高めるか、また学習言語としての日本語の習得をどう進めるかは学問的に未知の分野で、明晴学園の大きな課題となっており、専門家の支援を受けながら研究が進められています。
ろう文化
ひとつの言語がひとつの共同体をつくり、その共同体に固有の文化を生みだすように、手話という言語もまたろう者固有の文化、ろう文化を生みだします。ろう文化は視覚を基本とするため、明晴学園は授業のはじめや終わりを告げるチャイムの代わりに、どこにいても見えるフラッシュ・ライトを採用しています。教室は壁を取り払い、開放的な作りにしました。そうした物理的な面だけでなく、たとえば算数の「九九」を、聞こえる子は音で覚えるのに対し、ろう児は表で覚えるといった独自の認知方法に十分配慮しています。さらには手話という言語が生みだす表現、伝承、世界観や冗談までもがネイティブのろう者教員やゲストと共有され、ろう児はゆたかな人間的感性と表現力を磨きながら、そこに聴者とは異なる文化の体系があることを体得してゆきます。
バイカルチュラル教育
明晴学園は、バイリンガルに加え、バイカルチュラル教育を行っています。手話と日本語(日本語の読み書き)、それにろう文化と聴文化(聴者の文化)の4つの分野を重点とするということです。バイリンガルに加えてバイカルチュラルを柱としているのは、手話も日本語も、その言語の土壌となる文化を理解せずには習得できないからです。また聴文化の理解は、日本語獲得の背景として必須なだけでなく、聴者が圧倒的多数の社会で生きていくために必要な生活技術の獲得を意味します。一方ろう文化は、子どもたちが自然に身につける文化ですが、その正しい理解はろうであることに自信をもつ源泉となり、ろう児の人間形成に欠かすことができません。
「日本語対応手話」について
日本語対応手話とは、日本語を手の動きに直した手話です。ふつう日本の社会で目にすることが多いのは、この日本語対応手話の方でしょう。これは日本語がわかっている人にはよく通じますが、生まれたときから手話で育ち、日本語の習得ができていない子どもには通じません。通じないだけではなく、子どもたちにとってはあいまいで誤解を生みやすいコミュニケーション手段となり、言語発達や授業の妨げにもなりかねません。明晴学園で日本語対応手話を使わないのはこのためです。
中学部について
明晴学園にはいま幼稚部と小学部しかありません。しかし2010年4月に中学部の設立を予定しており、東京都の認可を受けるべく準備にとりかかっています。中学部ができれば、幼・小・中の12年間、バイリンガル・バイカルチュラルの一貫した教育を受けられるようになります。