パネルディスカッション
1日目午後のパネルディスカッションは、「ろう児のリテラシーについて」というテーマで行われた。発言者は以下の通り。
- パネリスト
- スティーブン・パール氏 ニューインターナショナルスクール学園長
- 木村美香氏 ニューインターナショナルスクール日本語プログラム主任
- 米内山明宏 明晴学園理事長
- 池田亜希子 明晴学園職員(幼稚部担当)
- 赤堀仁美 明晴学園職員(小学部担当)
- コーディネータ
- 木村晴美 明晴学園理事
パネルディスカッションの主な発言の内容
木村晴美
きょうのシンポジウムでは、午後に小学部の発表、「教科としての手話」、「教科としての日本語手話」があり、また幼稚部の発表「絵本の読み聞かせ、模擬授業『3びきのくま』」がありました。まずこれをどのようにご覧になりましたか。
パール
先生方が子どもたちを非常に尊重していることに驚いた。子どもたちの感情や発達をよく理解している。まさに子ども中心の教育だ。確かにろう文化というものがあると感じることができた。
日本語の授業のなかで、文法問題についての指摘は、子どもたちが自分で文法ルールを作ろうとしていることがよくわかった。英語の場合にもおなじことが起きている。たとえば英語では過去形に ed をつけることが多いので、子どもは何にでもed をつけようとする。子どもたちははじめは eat の過去形を ate といっていたのが、やがて ed をつけたりするようになる。はじめ正しかったのにまちがいになってしまうということは、学びの過程であり、たんなるまちがいとみてはならない。
もうひとつ感じたことは、動き、運動があるということ。本だけで学びはできず、身体を動かして学ぶことが必要。母語でない言語でどういう表現をするかは、基本的に母語の表現力にかかっている。幼稚部の模擬授業は母語の表現力が非常に豊かだった。それを次の言語に生かしていくことができる。
木村美香
つけ加えることはほとんどないが、一つ、幼稚部の発表を見て、私たちの学校でもおなじようなことをしていると思った。日本語教育ということで共通する部分だが、日本語が第一言語でない子どもがたくさんいて、おなじような問題点がある。ともに解決策を見いだしていけるといいのではないか。
木村晴美
明晴学園の側からの感想を。
赤堀
午前中の講演を聞いて、基本的な考え方は共通していると思った。ろう者と聴者というちがいはあるが、やはり両親の不安に対するケアなどはどちらも抱えている問題。ただ明晴学園の場合は歴史が浅く、いままでのろう教育とは異なることをしているので、社会の不審の目というものもある。今回の話を聞いて力づけられた。
質問だが、チームティーチングで、日本語と英語の二つの言語を併用しているというが、二つの言語の力の差にどのように対処しているのか。明晴学園の場合、ろうの両親のもとに生まれたろう児は、家庭では手話を使っている。親たちは学校で日本語の習得をしっかりしてほしいと思っているが、そのことはどう考えているか。
パール
子どもの能力はそれぞれにちがう。私の学校ではどのグループも3歳の年齢差があり、さらにバラバラだ。そこで私たちはテーマ別の学習を行う。たとえば「海」について学ぶということをする。それはどんな言語のレベルであってもできることだ。だから発達にあわせたグループでの活動を通して二言語を使うという方法でやっている。たとえばインプットを強い言語でやってアウトプットを弱い言語でするというようなやり方もある。基本的に教室のなかでは翻訳、通訳はしない。二言語を使うことで、両方の言語におけるスキルを定着させることができる。
最終的には両方の言語が発達しておなじレベルに達するが、中途段階ではまちまちで、それぞれに内容に合わせて学習を進めるということをしている。
私たちの場合は、両親に対して、とにかく家庭では両親の第一言語を使うようにと勧める。しかし明晴学園の場合、事情は大きく異なるだろう。子どもがろうであれば親も手話を勉強しなければならないのは大きなちがいだ。
木村晴美
補足するが、一般のろう学校では放っておいても子どもたちは手話を使えるようになるので、手話より日本語に教育の重点が置かれがちだ。そのような考え方のもとで日本語中心の教育がおこなわれているが、これをどうご覧になるだろうか。
パール
ほかのろう学校はともかく、私は明晴のアプローチが正しいアプローチだと思っている。すべての学科を手話で学ぶのが理想形だろう。
木村晴美
リテラシー獲得のためにはやはり第一言語の力が大事だと思う。
池田
マルチエイジと二言語併用という話を聞いて、明晴学園とじつによく似ていると思う。幼稚部を担当してるが、やはり子どもたちは母語で生活するということが非常に大事だ。それもマルチエイジを取り入れていることで実現されると考えている。一般的に、ろう児は早くから「聞くこと」をした方がいいといわれるが、そうではない、まずは母語なのだと思ってやっている。そこが共通していて力づけられる。保護者も不安に思っているが、きょうの話を聞いて大丈夫なのだと思えようになるだろう。
木村晴美
保護者は、ニューインターナショナルスクールや明晴学園の教育は自分が受けた教育とだいぶちがうので不安を持つかもしれない。通知表ひとつにしても、まったくちがっている。それがきょうの講演を聞いて、それでいいと安心できたのではないか。
米内山
非常に示唆に富む講演だった。やはり保護者の心配というのがあると思う。まずは子どもと手話で話ができるように、子どもとの関係性を作ることがたいせつだということがよくわかった。子どもが日本語をまちがえても、それは学習過程で起こることなのだと理解できる。しかし親はそういう子どもの日本語の能力に関して、どうしても心配になって口を出したくなる。家庭でのフォローということについて話を聞かせてもらいたい。
木村晴美
さきほどの発表のなかで、「がんばった」と書けていた子どもが「がんばかった」と書くようになるというまちがいが、あとから起こるようになるという話があったが、それはまさに日本語を身につけつつあるから起こるまちがいだ。しかし親はそれを見て不安に思う。それをどうするかといことなのだが。
パール
サンドラ・ストーンのいったことをお伝えしたい。子どもが棒高跳びをしていて、横棒を越える場面を想像してもらいたい。その横棒がだんだん上げられていっても、どんどん越えていく子がいる。しかし越えられない子もいるだろう。すると、向こう側で見ている親は、心配顔で見ていたり、なかには怒った顔つきを見せたりするようになる。また、自分も子どものころにはそんなにうまく飛べなかったから大丈夫だ、などという親もいる。そういう顔つきやアドバイスは、どれも役に立たない。ストーンは、この場合の越えるべき横棒は決められた期待値のようなものだと見ている。だから、まずその横棒を捨てよう、という。決められた基準値のようなものを捨ててしまうということだ。それは自分の子どもを信頼しなさいということだ。難しいことだが、それが子どもと一番関係性をとれるやり方なのだとストーンはいう。子どもを信頼し、棒を捨ててしまうことだ。
もうひとつ大事なのはタイミングということ。子ども中心のタイミング。ヨーロッパでは7歳になるまで、フィンランドでも7歳になるまで読み書きははじめない。しかし彼らは、フィンランドの子どもたちは世界的に非常によくできる子どもたちとして知られている。5歳ではじめるとか6歳ではじめるとかは、あまり関係がない。ところが、学年別の目標というものがあると、そのシステムが問題になる。みんなに合うシステムというものはない。それぞれの子どもを中心において、その子に一番合った環境を整えること、そして否定的な態度で子どもに接しないということが大事だ。
木村晴美
つまり社会が決める基準ではなく、その子をみるということ、その子がどれだけ発達したかをみるのが非常に大事だということだろう。
木村美香
ニューインターナショナルスクールのカリキュラムはスコットランドの方式のカリキュラムを中心に組まれている。日本語を教える先生が注意していることは、常にテーマ別学習のテーマと関連するということ。テーマに合った教材を選んで使うが、そこで何回もくり返し使われることによってことばが定着していく。どのことば、どの漢字をどれだけ教えるかはいつも明確にするようにしている。
こうして漢字を覚えたところで、それを書く力に変えていかなければいけない。読めるけれど書けないという漢字を減らしたいということで、作文にも力を入れている。しかしただ書きなさいというのではなく、また宿題などにすると書くことがほんとに嫌いになるということもあるので、知らないうちに自然に漢字を書いてしまうということができるような作文の形をいろいろ工夫している。

