研究発表・明晴学園の実践
バイリンガル・バイカルチュラルろう教育シンポジウムにおいては、1日目の午後、明晴学園から幼稚部、小学部の教育について2つの発表が行われた。以下はその要旨である。
「遊びの中で育ち合う子どもたち」
明晴学園幼稚部 池田亜希子、河合祐三子、栗原淳子、藤井久美子、
山岸千華(発表者)
すべてにおいていえることは、明晴学園の子どもたちはろうの子どもであり「眼の子」であるということだ。
「眼の子」同士が意思疎通できることばといえばやはり、視覚言語である日本手話なのだ。おなじ言語環境にいるからこそ、子どもたちは自分の考えを主張したり、友だちの意見を聞いたりすることで自分の気持ちや他人の気持ちに気づき、考え、協調性や思いやりを育んでいく。他人と共感したり、衝突したりすることで、話しあいや遊びの内容の質もより深いものになっていく。また年上の子は年下の子に「この話し方だとわからないから、このように話した方がいいよ」、「手が汚れているときは手の甲で肩をたたいてね」、「目をそらすと失礼だから最後までちゃんと見てね」など、ことばの使い方やマナー、ろうの行動様式やルールをお手本となって教えている。年下の子もそうやって一つ一つのことを覚えていき、子ども社会でのルールが子どもたちのなかで伝承されている。
「おなじことばで話す仲間」、「おなじ文化をもつ仲間」、これは子どもの心身発達や成長、自己の確立の基盤形成にとってなくてはならない重要な存在なのである。子どもたちは「学校」という小さな社会からやがて大きな社会へと飛び立っていく。価値観が多様化している社会のなかで強く生きていけるよう、幼児期に遊びや友だちとのかかわりで多くのことを学び、「子ども集団」という小さな社会のなかでもまれながら、さまざまな感情を経験しながら「みんなと一緒が楽しい」と思えるような経験を重ね、そこから多くのことを学んでいってほしいと思う。
日々変化する環境に能動的にかかわり、おたがいに影響しあいながら成長していく姿は、これからの明るい未来を思わせてくれる。子どもたちの笑顔をたいせつにしつつ、子どもたちの言語環境や保育環境をよりよいものにしていけるよう、援助していきたいと思う。いつの時代もたいせつにしている「遊びの心」を伝えていくとともに、子どもたちが主人公になれる保育のあり方をこれからも模索していきたい。
「学び合う子どもたち」
明晴学園小学部 小野広祐、榧陽子、狩野桂子
長谷部倫子、深瀬美幸、森田明
赤堀仁美(発表者)
小学部は10カ月を超す活動のなかでさまざまな取り組みを行ってきた。そのなかでも力を注いだのがマルチエイジ教育の実践と、一般校の「通知表」に代わる子ども一人ひとりの自己評価、「生活の記録」の作成である。
マルチエイジ教育では子ども同士の自然な教えあいや助けあいが見られ、自己評価では子ども同士の相互評価が見られた。本校の教育目標である「1人1人の子どもが自ら学び、自ら考え、充実した学びになってほしい」「他人に対する思いやり、助けあいなどの豊かな人間性が育ってほしい」につなげることができたと考えられる。
文部科学省が発表した新しい学習指導要領では、子どもの生きる力を育てるために言語活動時間の増加を挙げているが、私たちの取り組みはまさに子ども同士の言語活動をたいせつにした取り組みであった。これらは、バイリンガル・バイカルチュラルろう教育のなかでお互いに十分に通じ合える環境にいるからこそ、マルチエイジ教育と自己評価のよさが発揮され、子ども同士の活発な学び合いを促すことができたのだと思う。また教員も子ども同士のやり取りの内容をいつでも把握し、いつでも適切な支援を行うことができるから、子ども同士の学び合いを見守ることができた。
今後は下記にあげた課題とともに、マルチエイジ教育および自己評価の研究や研鑽を進め、1人1人の子どもが充実した学校生活を送ることができるよう支援していきたいと思う。
- 子ども同士の学び合いのなかで、1人1人の学びをさらに深める工夫
- さまざまなレベルやペースの子どもに応じた教材の開発
- 6年間の見通しをもったカリキュラムの作成
- 「生活の記録」の評価項目の整理
- 週単位、月単位、単元単位などの自己評価活動の検討
- 子ども自身が成長を実感できるようなポートフォリオの活用

